あした天気になれ

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時代との関わり方という問題の象徴

時代との関わり方という問題の象徴としての榎本武揚
まず、この小説の登場人物たちの歴史像を紹介しよう。

榎本武揚:英語、オランダ語を学び、プロイセン王国とオーストリアを盟主とするドイツ連邦諸国との戦いで、プロイセン王国が、情報(電信)とロジスティック(鉄道)という近代戦の要を駆使して勝利するのを、実際に目の当たりにする。

慶応4年(明治元年)-明治2年、旧幕府海軍副総裁として、最後の戦い、箱館戦争を戦い抜く。

その戦争にあっては、留学中に知った赤十字精神を実践し、敵・味方の区別なく治療に当たらせる。

福沢諭吉らの助命嘆願により、生き延び、「明治最良の官僚」との評価を受ける。

足尾鉱毒事件においては、初めて「公害」という概念を定着させる。

二君に仕えたという点において、福沢諭吉は、オポチュニストと激しく批判した。

土方歳三:新撰組副長。

戊辰戦争では榎本武揚と共に戦い、指揮官としての抜き出た才能を発揮する。

池田屋事件で見られるように、冷静の人であったらしい。

また、鳥羽・伏見の敗戦では、近代戦の必要性を痛感する、聡明な人でもあったらしい。

ハンサムで長身であった土方は、35歳で戦死している。

島田魁:新撰組伍長。

おそらくこの小説の「書き手」浅井十三郎のモデルとなった人物。

箱館戦争では、常に土方と行動を供にし、戦い抜いた。

明治の世にあっては、榎本武揚の(政治への)誘いを断った。

また日記等を残し、貴重な歴史資料となっている。

この小説のテーマは、山田風太郎の言葉が裏から語っている。

「榎本武揚が五稜郭で死んでいたら、日本史上の一大ヒーローとして末長く語り伝えられたであろう」。

「時代」と関わる時、常に忠誠は善であり、転向は悪なのか?榎本武揚は、福沢諭吉の批判に代表されるように、転向者の烙印を押され、否定された。

安部は、大胆な仮説の中での榎本武揚像によって、忠誠でもなく、転向でもない「時代」との関わり方を問う。

その問いは、経済のグローバル化により、国家というものが意味を失い、どんな主義からも自律的な巨大なシステムによって、全てのものが動いている現代という時代にあって、もはや意味がないように思えるし、逆に意味深いようにも思える。

少なくても、土方歳三のように主義に殉じるという関わり方では、道を切り拓くことはできないだろう。

榎本武揚
安部公房といえば、超現実主義的手法。

つまり現実にはありえないことを書き、その中に現実の不条理などを描き出す作家である。

しかし本書は、安部公房としてはかなりそれらしくない作品である。

読みやすい。

当時の新聞などよりの抜粋などが出てきたりして、おおいに現実に即して書かれている気がする。

時は幕末、幕府海軍軍艦奉行、榎本武揚は、反新政府側の最後の砦となりつつあった。

当時、日本にある最新鋭の軍艦八隻を率いるその人だった榎本と合流するべく北へ北へと落ちていく幕府陸軍のトップ大鳥圭介。

新撰組二番隊組長、土方歳三。

そして、その途中で土方に仕官した新撰組隊士、浅井十三郎が見て、聞いて、感じて、そして知ったこと。

土方は死に、榎本は生き残った。

それはなぜなのか。

普段、語られることのない「戊辰戦争」の真の意味とは。

歴史って微妙。


「悪者」の役どころなのに、飄々として憎めない榎本氏の描き方が魅力的で新鮮で、悲劇的な史実をもとにしているのに、全体を通じてなぜか可笑しく、エンターテイメント小説として純粋に楽しめました。

と同時に、実際、それはありえるかもと、少し違う角度から「歴史」を考えさせられもしました。

幕末小説としてはマイナーな部類だと思われますが、土方さんがかなり良い味を出しているので、新撰組フリークの方にはぜひ読んで欲しいです。

榎本武揚 (中公文庫)安部 公房
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by ayapin1r | 2010-09-14 20:24

本当のフランス料理を日本へ持ってきてくれた人


そんなに遠くない昔にはフランス料理は、極北の日本で驚くほど適当に、間違ったかたちで存在していました。

そこに、料理などまるで門外漢の一人の青年が、ふとしたきっかけでフランス料理の世界に足を踏み入れます。

料理を知らないかわりに、青年には有り余るほどの知識欲と物をしりたいという素直なこころ思わずまわりの人たちが助けてしまう人間的魅力を備えていました。

私たちがいまや家庭でも正しいフランス料理やビストロの味を出せるのも辻さんがいてくださったからなんだなと初めてわかりました。

一人の青年の成長譚としてもフランス料理の誕生の姿としても美味しいものの好きな方にも辻調理学園についても知ることができます。

海老沢泰久の流れるように読みやすい文体で厚さもきにせず読破されることうけあいです。

本当に素敵な本です。

ココロからおすすめします。

辻静雄の半生
1992年に出た単行本の文庫化。

辻静雄の半生を小説化したものである。

辻は大阪の辻調理師専門学校の実質的な創始者であり、フランス料理の研究家としても知られた。

しかし、もともと料理の道を目指していたわけではなく、ひょんなことから料理業界に飛び込むことになってしまったのであった。

ところが、いったん料理学校に携わりはじめてからは、たちまち成功の道を歩んでいく。

そのあたりが詳しく書かれているのだが、成長と成功の物語であり、読んでいて非常にスピーディかつ軽やかで、面白い小説であった。

熱心な取材を行ったようで、情報の量と正確さも素晴らしい。

料理についての描写にも工夫があり、美味しそうだった。

構成にやや難あり。

辻静雄の功績
辻調理師学校の創設者である、辻静雄の物語で、導かれた運命に、本来もっている彼の大きなエネルギーが合わさり、興味深い人生がとても面白く描かれています。

新聞記者をしていた辻静雄が、大阪で料理学校を経営していた辻徳一の娘と結婚したことが発端となり、料理の世界へ入り、また大学でフランス文学を専攻していたことから洋書を読み、フランス料理への傾倒が始まります。

そしてその洋書の著者たちに会いに、またフランス料理を本場に食べに渡航し、名だたるシェフや美食研究家たちと知遇を得ます。

これは、まだ辻静雄の物語の助走にしか過ぎませんが、辻静雄の半端でない探究心の旺盛さが既にわかります。

そしてこの後、海外の著名なシェフを招いたり、フランスでの学校設立など、生涯にわたり幅広い活動をします。

彼が書いた料理に関する多くの本は、今読んでもデータ的なことを除けば古くないですし、有名となっている料理人に、辻調理師学校出身の人が沢山いることから、多くの書物と学校での料理人の育成は、後世に残る功績として多大なものがあったことを、改めて感じざるをえません。

美味礼讃 (文春文庫)海老沢 泰久
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by ayapin1r | 2010-09-11 20:24 | 日記

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